かなり大げさなタイトルで記事を書く。
僕はもちろんファッション業界の全てを知っているわけではないし、
「お前に何がわかるんだ」
とか
「ネガティブなことばっかり言いやがって!」
なんて意見が出るかもしれない。
でもいいのだ、
明確に見えている限界点をここに記して、
少しでも工場の運営やブランドの運営に疑問を持っている人が「なるほど」と思っていただけて、行動に移してもらったら嬉しいと思う。
「うちはそうじゃない」という方はぜひそのカラクリも教えてもらいたいと思う。
縫製業の限界を感じた瞬間
僕は先日ある工場の売上と経常を見た。
*経常・・・経常利益の略、本業の売上から原価や販管費を引いて残った利益(営業利益)から雑収入などを引いて残った金額。
その工場は大阪ではそれなりの規模の縫製工場で、
関西のとても調子のいいメーカーさんの縫製を行なっていたり、
服だけじゃなくて有名メーカーのカバンの縫製なども行なっていて、
言ってはなんだけど、雑食でなんでも縫うし手も悪くない、
それなりの加工賃で縫っている「ちゃんとした工場」である。
研修生を入れているが研修生たちの雰囲気もとってもよくて、
いつも工場に行くと「こんにちはー!」って元気よく返事を返してくれる。
その工場さんの数字だ、
規模的に3億くらいの売上かなぁ?
と思っていたらドンズバり、
ちょうど3億くらいだった。
経常利益は500万くらい。
一見利益は出てるんだと思ってしまう、
しかし現実はどうだろうか、
細かい部分までは見ていないが、これくらいの規模の工場さんだったら借り入れは多分5000万くらいあってもおかしくない、
借り入れの短期、長期、返済期間などによるが、
仮に全部が長期で7年返済だった場合年間で約715万円の返済があるので実質キャッシュフローとしては200万ほどマイナスになる。
さらに税金などの支払いなどで数百万必要だろうからどんぶり勘定で500万くらいは現金が足りなくなるのだ、
その足りない分はどうするか?
もちろん借りるのである、
そうして借り入れは500万円増える。
翌年はまた700万返さなくてはいけないのだ。
借金は全然減らないし、売上を上げ続けなくてはいけない。
(規模を小さくする事ができない)
つまり自転車操業のような状態になる。
ここにもし1人新しい人を雇ったら。。。
もちろん雇える余裕なんてあるわけがないし、ましてやリクルートなんかに何百万も予算をさけるわけないのだ。
ミシンが1台壊れるだけでとんでもないことになるだろう。
一部僕の予想の部分も反映しているのでなんとも言えないが、
日本の「それなりにやっている縫製工場」でもこんな現状は珍しくない。
これが日本の縫製工場の現状だ。
分業の限界
僕はこの状態を「分業の限界」と名付けることにした。
どういうことか?
通常「分業」していると言えば「無駄なマージンが多いんだ」ということになる。
100がその分業業社適正価格だとして、各業種が20ずつ利益を取るとすると
分業A 120
分業B 120
分業C 120
つまり分業が3社入ることで360のコストが必要だ、
縫製業でいうと「振り屋さん」「裁断屋さん」「縫製工場」などだろう
そのため一部を分業をなくすことで、
分業A 120
分業BC 220
にして合計を340にする。
(この場合は振り屋さんは入っているが縫製工場の中で裁断を行なったとする)
そうすると分業が3社入る時より経費が20浮くことになる
これが無駄な分業を省くという考え方だ、
(割合の問題なので実際のコスト感とは少し違うのだが)
これを例えば原価340で1000で売っているとしたら利益が660になる。
これだとみんなハッピーだ、全員が利益を取っているし問題ない。
この姿が10年以上前のアパレル業界の姿だ。
しかし、
現在起こっていることはどういうことか?
市場の価格がデフレにより急激に低下しているのだ、
つまり売値が1000ではなく800位になっている。
そしてアパレルメーカーは利益を減らしたとして550位になったとしても
800(売値)-550(利益)=250(原価)になってしまう。
これを分業で回すと
分業A 80
分業BC 170(本来は最低200ないといけない)
こんな感じになる。
わかるだろうか、適正価格(生きていける価格)が100を下回っている。
これが現在の縫製工場なのだ、
通常はご飯を食べれて、人を育てて、貯金できるだけの賃金と収益が必要だ、
しかし余力どころか、「通常通りご飯を食べる」の部分ができないほどの金額になっている。
縫製工場勤務30年、手取り10万(国保)なんてザラだ。
(上記計算はあくまでも仕組みの説明のために仮に数字を当てているだけで、メーカーが儲け過ぎているわけではない、メーカーもかなり苦しい)
大手の工場がコロナの影響で仕事がないからと従業員を全員2ヶ月出勤させないで最低限の「休業手当」しか支払わない、という状況が起きているくらいだ。
大手の工場でも本当に余裕がないのだ、
この分業を行う業者が適正値100を下回っている状態が「分業の限界点」であり、
上代をあげる、工場をやめる。
以外に選択肢がない状態なのだ。
売り方の限界
この分業の限界が起こる理由にはいくつか問題がある、
それは海外との物価の差であったり、景気が悪いこと、
消費の価値観が変わったことなど様々だが、
少なくともアパレル業界に関しては「卸す」という前提があり、
その価値観が根付いている時点でかなり厳しいのは間違いない。
予め伝えておくと卸すことは悪ではない、
最近はD2Cが「善」とされている部分もあるが、必ずしもそうではないと思っている。
だって自分の住んでいる近くの地域にお店があって、そこで実際に手にとって洋服を選ぶことはD2Cでネット販売だけだとできないし、
やっぱり店頭に並んでいる洋服を選ぶドキドキはどれだけネットが進歩しても残っている価値観だとも思う、
また店頭のスタッフが自分たちの洋服の想いなどをきちんと伝えてくれることで、
遠くにいながらファンを獲得することができるかもしれない。
だからどちらの売り方も「善悪」はないのだ、
だけど
デフレが進んでいる日本、アパレルにおいてもう「省ける部分」がなくなっているのだ、
原価を省くのはもう無理だ、
だって生きていける限界点「分業の限界点」を超えているんだ。
じゃあどこを省くんだ?という話になる。
そうした時にD2Cという概念が出てきて「直接届けることで卸すマージンをなくそう」というわけだ、
卸すと店舗側には40%ほどが入るので、
2万円の洋服だと卸値は12000円になる。
その差額8000円を儲けにする、もしくは値引きしてより安く届ける仕組みにしよう。
というのである。
もちろんD2Cにすることでお客様と直接コミュニケーションを取れるメリットもあり、素晴らしいことなのだ。
問題は「どこを省くか」という概念になっていることである。
仕組みの限界
日本人は特に「儲ける」ということに対して異常なまでに嫉妬をし、
批判をする。
僕がこの業界に入ってきて驚いたことがある。
(後から考えるとこの業界だけではなくものづくり業界では暗黙の了解になっているのだが)
それは元請けの価格を下請けに伝えることのご法度である。
例えば
5000円でアパレルメーカーから受けた仕事があるとする、
自分たちで裁断をやって価格交渉して、資材管理をして、
検品もするし、仕上げもする、品質のリスクを負って、そもそも取引自体にはリスクがつきものだからリスクヘッジも含めて40%を得て「縫製」という業務だけを下請けに出すとする。
自社の取り分は2000円、
縫製賃は3000円だ、
もちろん縫製には時間もかかるし技術職だからそれが高い!とも思わないが、
少なくとも回収不能のリスクなどは起こらないから僕は適正価格だと思う。
しかし僕たちがもともとから得た5000円という金額は
「口が裂けても言うな」と言うのである。
理屈としては
「お前たちは仕事を受けてこちらに投げるだけで40%もとっているのか!」
と不満がたまるから、
と言うことらしい。
ここに大きな問題があるのだ、
だってメーカーは5000円の加工賃を出しているんだから5000円の顔(仕上がり)で上がってくると期待をしている。
しかし縫製を担当する人は「3000円だ」と思って作るのだ、
ここに2000円のクオリティのギャップができてしまう。
これではメーカーは高く売りたくても売れないだろう。
やるべきことは5000円で受けていることを内緒にして縫製を行なってもらうことではなく、
5000円で受けていて、”何故”3000円でお願いしているのかをきちんと説明し、
理解してもらい、一緒になって5000円”以上”の価値を提供し、
僕たちは8000円くらいの価値を出してるんだから価格を上げてくれと交渉することだろうと思うのだ。
日本の通例、商習慣があり、
そのしがらみの中で各々が協力せずにむしろ”敵対”している日本の縫製業は、
このままの仕組みであれば存続は絶対にない。
どこかで仕組みを変える必要がある。
僕が口を酸っぱくして
「コミュニケーションが服づくりの質を高める」
という理由はこれなのだ。
“日本の縫製業を次世代につなぐ”
悲観的なことばかり言ってても意味がない。
どう変えていくのか明確に示せないと僕はただのポンコツジャーナリスト気取りだろう。
僕は経営者だ、
現状を見た上で新しい方向を示し、実行する必要がある。
うちのビジョンは
“日本の縫製業を次世代につなぐ”なのだ。
僕が考えていること、
それは「仮想SPA化」と「販売のハイブリット化」である。
仮想SPA化について
僕は前にも書いたのだがSPAが最強だと思っている、
作り手が直接販売を行うことで先に書いた中間マージンという概念がそもそもない、
最強に安く作れるし、作る人たちの仕事を確保できる。
そして販売に関しても作り手が売るわけだから「想い」や「こだわり」そして「ストーリー」も直接伝えることができる、
そうなるとファンづくりができるのである、
しかし現在小規模のアパレルメーカーはデザイナー1人、もしくは生産管理を行なっているスタッフの2名だけなど小規模で行なっている場合が多い。
想像に難しくもないが、
この状況ではデザイナーやアシスタントは常に「作ること」と「売ること」に必死になってしまい、戦略を組むことはおろかしっかりと一人一人のお客さんとコミュニケーションをとることもままならない、
だから本来はお客様に直接販売したくても”時間”がないがために売上の99%を卸しに集中させているのだ、
卸しだったら展示会を開いてバイヤーさんを集めて、そこで受注を取るので悪い言い方をすれば「売りに回る手間が省ける」
でも本来はお客様の顔見て、
一人一人に自分たちのストーリーを語り、売ることでファンはついていくものなのだ。
でもとにかく”時間”がない。
そこでヴァレイ(弊社)ではブランドの生産管理業務と製品化を丸々と請け負ってしまう。
弊社は国内に数百人の職人さんを登録しているから、そのうちの数名をそのブランドの専属に据えてしまう。
そのブランドの仕事がないときは別のブランドのOEMを行うことで、仕事量は確保できるので「自社工場を持ちたいけど、仕事がない時期に工場を埋められない」という心配がないのだ。
生産管理に関しても弊社はコスト、資材、裁断、品質、出荷(仕上げ)の5つの生産管理チームを独自で持っているから、
当然ながら担当1人でやっている仕事を回すことなどわけない。
つまりブランドさんとヴァレイが一緒になって1つのブランドを運営する。
お互いが持っているリソースを出し合って最強のSPAブランドにするのだ。
そしてデザイナー自身の時間を確保することで今まで以上にデザインに集中ができ、
「時間があったらこんなものも作りたかった」とアイテム数も増やして、
生産し売上を上げていくことができるようになる。
これが「仮想SPA」である。
デザイナーの仕事は「デザイン」なのだからそれに集中できるリソースを与えるのである。
販売のハイブリット化について
そしてこのSPAをすることで直接お客様への販売を行う時間を確保することができる、
今まで生産管理で手一杯だったスタッフは販売会の準備をできるだろうし、
半年も前に止まっていたブログや一週間に1度だったSNSも更新できるようになるだろう、
そしてお客様に直接販売が行えるようになる。
現在99%を卸で売っていたブランドを卸50%程度、直販50%程度に持ってくることで利益率は20%ほど上がるはずだ。
もちろん卸は続ける、
よりたくさんの方に同時多発的に商品に触れてもらう機会を作らなくてはいけないからだ、
しかし”卸”をキャッシュポイントとして捉えるのではなく、
あくまでもブランドに触れてもらう機会とし、
収益を得るポイントは直接の販売である。
この2つが僕が考える今起こっている日本の縫製業の課題を少しでも改善することができるだろう。
だけどこれには1つ、
とてもとても大きな課題がある。
最大の課題
最大の課題、
それは言うまでもないが
“むちゃくちゃしんどい”である。
僕は4年間会社を経営してきて、
いろんな経験をした、
現在卸のメーカーをSPA化させることも、
ファンをつけることも、
弊社を活用し仮想SPA化させることも、
現実的に「可能」であるし、
成功させることも経験則から「可能」だとわかっている、
ただ、
新しい仕組みを作ってスタートさせることは”めちゃくちゃしんどい”のである。
正直やりたくない。
やれとも言われてない、
皆さんも僕がやろうがやるまいがどうでもいいだろう。
でも、
やっちゃうのである。
これはなんだろう、
好奇心?なのか、
偽善心?なのか、
4年前に作った”日本の縫製業を次世代につなぐ”という自分との約束を愚直に守ろうとしているからなのか、
わからないし、しんどいのだが、
進もうと思う、
僕はまだまだプレーヤーでいたいのだ。
そして仮想SPAブランドをとりあえず10個作っていこうと思っている。
そのために3月26日から僕は日本中を旅することになる。
また家族には迷惑もかけるだろうが、
止まるわけには行かない、
事業を始めてしまうと、
ブランドさんとも喧嘩しまくるだろう、僕の思考が理解できない、
僕も向こうのこだわりが理解できない、
罵り合うこともあるだろう、
お金が足りなくなることもいっぱいあるだろう。
でも1点の頂を目指して進むのである、
会社の経営は甘いもんじゃない、
理想だけでは進まないことは一番僕がわかっている。
だけど、
誰かがやらなきゃ、
日本の縫製業は終わるだろう。
日本の縫製業の限界を僕は見てしまった、
もう救えない部分も多いだろう、
全員がハッピーな物語にはならないだろう、
だけど少なくとも自分ができることは全力でやろう。
そう思うのである、
ヴァレイ第二ステージである。
また日本中の旅で、僕を見かけたら「あ、谷さんご飯行きましょう!」って誘ってください。
で、
ビール飲みましょう。
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